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Channel: こけしおばちゃん
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「隠れマニア」のこと ②

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 昭和59年9月号発行「こけし手帖」より。 
 こけし同好会などに無縁の見知らぬ人びと、つまり「潜在マニア」ばかりがそこに群がっていたのです。おおざっぱにいって千人は越しているでしょう。
 ずいぶん前の話だが、こけし友の会の東北旅行の帰り、石井荘男さんと二人、仙台から急行に乗った。発車間際に飛び乗ってきた人が隣の席に乗った。そんなことから、私たちが雑談しているうちに、その人が笑いながら話してきた。
 「私には、妙な趣味があるんです。趣味といっていいか、どうかわからないですけれども、こけしを集めることが好きなんです。こけしって、木の人形なんですがご存知ですか」と。石井さんと私は、こっそり眼を見合わせた。その人は、仙台で医院を開いているドクターだといった。仙台住まいなら、こけしの本場の一つのはずだが、このドクターは、そんなことも知らないらしい。そしてこうも言った。「もう、三十本もこんなもの集めて持っています。こんなに妙なものを持って楽しんでいるなんて、妙な趣味だとお思いでしょう。」やや自嘲的な笑いを浮かべながらも、ドクターの眼には、なにか誇りに満ちたよろこびみたいな色が瞬間かすめたようにもみえた。
 まさしく、これなど”潜在マニア”の一人である。私たちの周囲にも、独りきりで、こけしを愛し親しんでいる隠れマニアが、おそらく何万、あるいはそれ以上いることだろう。
 安野光雅の画集『蚤の市』には、パリのリラの門をくぐったあたり露店マーケットにさまざまな雑誌の店が描かれているが、その中ほどで日本製の手桶や下駄類と並んで、鳴子ものらしいこけしが六本売られている図がある。
 いったい、誰の目にこれがとまって買われてゆくのであろう。ヨーロッパにも、”隠れマニア”がいるのかもしれない。 以上。筆者 斉藤良輔。
 ※ 私のこけし仲間に、仙台のお医者さんがいます。立派なお医者さんですが、かなりのこけしを集めているのです。

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