『こけし手帖』平成19年5月号 556号 「例会ギャラリー」より。
今回は昭和29年作の佐藤春二9寸を見て頂くことにする。著名な収集家のこけしを紹介した写真集に戦後の作品が掲載されることは稀で、あったとしても、遊佐民之介や横山政五郎など戦前作が極めて少ないが、ない作者の作品に限られるのである。
いきなり余談で恐縮であるが、このこけしは数年前「たつみ」で某氏の売り立てがあり、入手した。この催しは取り立てて宣伝されず、口コミで知れるところとなった。私は聞いてすぐに駆けつけたのだが、売り始めてから3日間ほど経っていたようである。先客は何人位だったのだあろうか。こういう時は気持ちが高揚するのである。
気を取り直して選んだこけしのなかにこのこけしがあった。中古品や古品の場合、良いものから順に売れていくというより、割安のものから売れていく可能性が高いことと、値段の高いものを買う層は限られているため、どうかするとよいものが残っている場合がある。このこけしの場合、昭和20年代の春二に目をつけていた私には飛びつけるこけしだった。
春二はこの頃は村会議員を務めており、こけしは少ない。(こけし美と系譜)に同じ29年作の中屋氏蔵が載っている。「この頃までは瞳の大きい可愛いものが多く」と解説されているものである。他の文献を当たって見ると(愛こけし)(植木昭夫)に29年作、30年作が載っている。
私の作品と中屋氏蔵は寸法が近いせいか、全く同趣であるが、植木氏蔵の7寸は胸部が旭菊でなく襟になっている。
34年頃からこけしを多く作るようになったということなので、戦前と量産されてからのこけしを繋ぐこけしとして、私はこのこけしを注目して見ています。以上。小川一雄氏著より。
※ 弥治郎系こけし工人・佐藤春二(明治36年~昭和57年、享年79歳)は弥治郎系伝統こけしの第一人者。華麗なこけしを作り、現在は、各弟子たちが、春二型、父の幸大型など、各弟子たちが作り続けている。