本（こけし・みちのくの旅）のこけし随想には、劇作家・伊馬春部（明治41年～昭和59年）の「思い出のこけし」が載っている。
＝それはまだ、あの大戦など勃発していなかった、昭和15年の師走のことであった。陸羽東線の川渡温泉で一泊した。それは、今はなき・折口信夫先生を中心に、門下生数名との一行であったが、「今年の編集旅行は、鄙びた出で湯めぐりにしたらどうだろう」といわれた先生の発案のままでたのである。川渡から作並への途中あるいた鳴子の町、こけしの古里であるだけに、どうしてもと一本求めた。私には、こけしの出会いということでいっそう忘れられない編集旅行になったのである。（中断）小さかった長女も今は9歳をかしらに3児の母親。家宝のこけしが古色蒼然と色褪せてしまったのも止むを得まい、30年前の編集旅行、鳴子の町が偲ばれてならないのである＝。