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Channel: こけしおばちゃん
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こけしを作った人たち

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 ただ一本の木人形に、人をひきつけてしまう魅力をあたえたのはどんな人達だったのだろうか。
 ※「木どり三年、道具打ち五年」
 古老といわれる工人に会うたびに、よくこんな話を聴かされたものだ『木地屋は、木どり三年、道具打ち五年と、つらい修業をさせられたものだ。雪の深い山での材料の伐採やら運び出しのつらさ。フイゴで
灼いた鉄から木地鉋を作るなど一人前になるには長年の修業がいる。盆・椀・雑器をつくるのに、これだけのことは身につけなければならぬものだった。そして師匠から離れて自分でやるようになっても、この作業は続いた』と。
 こんな厳しい仕事の話をしながらも、むしろそれが今の自分にとっては誇りなんだ、幸せなんだと言わんばかりの落着いた、ゆったりした話しぶりを思い出す。いちずに何かをやってきた人々には、かならず風格というものがそなわっている。こけし作りの古老もやっぱりそうだった。
 ある工人から愉しい話を聴かせてもらい、聞きほれていたら、とつぜん雨が降り出してきた。しばらくは、やみそうにない豪雨になった。天井からポタリポタリと肩に滴がおちてきた。いままで座っていた場所から雨漏りのしないところに移ったが、そこにも落ちてくる。そのうち居る場所もなくなるほどポタリポタリ、うろうろしていたら、雨の強い音にもまけぬほどの大きな声で、しかし、どなるのでもなく『もうじき、雨漏りはとまる。たいした時間はかからぬから、じっとしていることだ』という。彼はまったく動かず煙草をふかしていたが、もう肩のあたりは濡れていた。  
 たしかに、間もなく雨漏りはとまった。つけたすように彼は言った『屋根はスンカワ(杉皮)だから、しめってふさがったんだ。暑い日はいいぐあいに風を通してくれる』と。
 「こけし手帖」昭和59年1月号・『こけし・あれこれ』葦文五郎著より。

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