温海温泉から再び新庄駅に戻り、ここから奥羽本線を南下、「おしん」で一躍脚光を浴びた銀山温泉への入口大石田駅を過ぎると間もなく、駅近くに温泉街のある東根駅がある。この駅前の羽州街道を少し北に行った道路沿い、住宅敷地内に一基のこけし像が立っている。
これは、この付近で発生した自動車事故での死者を弔うために、死者の身内である東根温泉の旅館主が立てたこけし像である。
東北地方各地のこけし像が、主として観光客を対象とした案内、広告のものであるのに対して、このような死者を弔うための、供養塔としてのこけし像はここだけである。
奥羽本線乗車ついでに、この沿線から姿を消したこけし像のことを加えよう。
かつて上ノ山駅の南方、13号線道路沿いに上山温泉(「上ノ山市」は先年「上山市」に改名のため、「上ノ山温泉」も当然「上山温泉」に変更になる)の案内塔としてのこけし像があり、列車の窓から見ることができたが、近年見えなくなったので、本稿執筆のため現地の知人に問い合わせたところ数年前解体してしまったとのことである。誠におそまつな横道への案内で申し訳ないが、この亡くなったこけし像の話で、こけし像巡りもいよいよ終わりに近づいた。
すでに分かるとおり、本稿で見てもらった大小のこけし像は、すべて宮城、山形両県内のもので、東北地方の他の四県内には見当たらない。或いは、あるのだが私は見ていないのだろうか。いずれにしても、宮城、山形両県内に集中していることは、この二県のこけし産地及び近辺都市での、一つの流行かもしれない。また他方こけし像を造る業者の存在が、この傾向の担い手になっているのではないかとも考えられる。昭和59年5月号「こけし手帖」より。