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Channel: こけしおばちゃん
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「文吉の一側眼」

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 『こけし手帖』平成25年6月 629号「例会ギャラリー」より
 佐藤文吉のこけしは何時もながら私の気持ちを焦がす。何本所有しても尽きることがない。先達の表現を借りるとその表情からアルカイックスマイル、きれいさび、そして強烈なエネルギーの発散等、見る者、所有する者の心を打つ。その要因は眼の描彩に拠る処が大きいと思われる。表現上大きな制約を受ける一側眼では如何なのかを取り上げてみたい。
 下瞼があるかないかで表情の表現は激変する。眼は口ほどに物を言う。眼は心の窓等と云われ、工人も眼の描彩には心を砕き、面描に於いて上瞼と眼点のみで表情を表すことは極めて難しいものと思われる。
 今回手持ちの5本のこけしを並べ、描彩の変化、変遷を取り上げてみたい。 
 文吉は、大正11年生まれで、初作は12年、15歳と云われている。戦前は余りこけしは作らず、戦後は31年から本格的にこけしを製作した様だ。
 写真左から年代順に並べてみた。 のこけしは14年、17歳の作で旧溝口コレクションにあったもの。祖父、師匠の型を倣ったものと思われるが木地、描彩共も巧みではないが後の文吉が取り組んだ様々な要素がある。文吉の原点なのかとも思う。眉は平らかに引かれ眼は茫洋として遠くを見つめている様だ。初期の作なのに老成した感がある。 は26年、35歳の作。打って変わって、眉は細く湾曲し、眼点が丸く極めて大きい。少々違和感はあるが当時の流行を取り入れたものかと思う。恍けた表情が面白い。
  は底部に署名と共に文六型及位と書かれている。鬢の位置が高いことから32年から33年頃かと思われる。眉は更に細くなるが眼点も小さくなった様だ。表情は明るく笑いを絶えている様な感がある。
  は38年、45歳の作。この時期はまだ頭は長い。鬢の位置が下がり、眉は太くなるが俯き加減で少々寂しげな眼をしている。色彩も淡い。
  は底部に文吉と署名のみが記されている。頭部は横広がりとなり、胴が太くなる。眉は太く眼力を感じる。年代は40年と思われる。作品を通じて一側眼の表情の奥深さを感じさせられた。以上。 
 こけし友の会・平塚俊夫氏著より。

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